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遠くて近い富士山頂から

−日本上空の二酸化炭素濃度変動を通年で観測したら−



須永温子(国立環境研究所)

「登らぬ馬鹿、二度登る馬鹿」という言葉がある。言わずもがな、これは富士山のことであるが、山好きの私はこの言葉を知らなかった。というのも、いつか一度登れればいいやという程度で、失礼な話ではあるが、富士山に対して特に関心がなかったからである。ところが、いつの間にか両手で収まるか収まらないか位の数を富士山に登っていた。

2007年、NPO富士山測候所を活用する会が測候所を借り受けて研究者が夏期観測を始めた夏、国立環境研究所は富士山頂での二酸化炭素濃度の通年観測を目標に、測定システムの設置場所を検討する調査を行なった。2009年の夏、1つ15kgの低温用バッテリー100個と測定システムを山頂に運び上げ、試験観測を開始した。そして2011年7月、試験運用を終えて本格的な長期観測に突入すると発表した。最初の2年は測定システムの開発と富士山頂という特殊な観測環境ゆえに立ちはだかる課題への取り組みに費やされ、次の2年は観測現場で生じる、地上では予測できなかった問題への解決に取り組んだ。山頂で作業できる時間は限られている、突風が吹く絶壁の上での作業は危険で寒い、高山病にも耐えなければいけない。闘うものが多すぎて頭は働かないのに難題が多い現場なのだ。だが、その4年があって今がある。電力源であり観測の要である鉛蓄電池が充放電を繰り返すことでその寿命を削っているのが気になるが、今では以前に比べて安心してデータ受信を待っている毎日である。

地球温暖化を食い止めることは世界が一丸となって取り組まなければならない課題である、らしい。エコ意識と自然に優しい生活が注目されているし、エネルギーの無駄使いを無くすことを少し取り入れてみた。でもその小さな取り組みがどれだけ温暖化防止の効果に繋がるのか分からない。自分が日々削減できる二酸化炭素は全体のどれくらいなのだろうという疑問を抱くこともあるけれど、その答えは置き去りのまま。実はこのような人が多いのではないか。

富士山頂で継続的に二酸化炭素の濃度変化を測定し、測定値を伝えていくだけでは前述の疑問に対する直接的で明快な答えは提示されない。なぜなら観測される二酸化炭素の濃度増加は人々の生活から排出されるものの総和であり、また同時に大自然の吸収量の変動に由来するものだからだ。一人ひとりの努力は"データ"の中に含まれており、それを科学的に解析し、解釈をしたうえで一般の人々へ正確に伝わるように解説を加えるのが我々研究者の担う部分である。

自由対流圏内の長期定点観測は数が少なく、富士山頂で得られるデータが教えてくれることは多い。世界各地の同様な山岳観測点や高度大気観測のデータと比較すると、日本上空の二酸化炭素の濃度変動の特徴も掴める。世界のどこかの話ではない。自分が生活する土地の上空における二酸化炭素濃度変化が見えるのだ。日本の二酸化炭素の放出量のみならず、中国などの東アジア圏の国々からの影響があることにも気づかされるだろう。富士山で測られた意味のあるデータは、元をたどれば私達の生活の影響を直に反映するものだ。そのつながりと二酸化炭素濃度の変動を知ることで、何が起きているのか、何ができるのかを考えることに繋がって行ってほしい。

科学とは生活と生命に直結しているものである。しかし、専門用語を用いた情報は理解し難く、誰もが敬遠しがちだ。だから、富士山頂で環境や健康に関する研究を行なうべく奮闘している研究者が居ること、富士山と富士山測候所を想いそれを支えようと頑張っている人々が居ること、そしてそれらの研究が実は我々の生活に直結していることを知ってもらうことで環境科学を身近に感じ、何かを始めるきっかけになってくれたら嬉しい。


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[関連リンク]
富士山頂における大気中二酸化炭素濃度の自動越冬観測の試み (NIES記者発表 2011年7月25日)
“日本最高”の研究所 (NHKニュースおはよう日本 2011年8月3日放送)



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