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日本でいちばん高い住まいに暮らして

―極地の居住環境を調べる―



村上 祐資(東京大学)

風呂桶から溢れる湯量に、しばし目を丸くする。石鹸の泡立ちが悪い。石鹸がもつ汚れ分解能力を、こっちが軽くオーバーしてしまっているのだ。「すまん、すまん。」と心の中で呟きつつも、なんだか嬉しくなって、とりあえず頭から豪快に一杯。お湯が存分に使えるのをいいことに、満足するまで同じ部位をゴシゴシと何度でも洗う。

2010年のこの夏、僕はNPOの研究メンバーとして富士山測候所に約三週間滞在することになった。この三月までは南極観測隊の一員として、南極の昭和基地で一年半暮らしていた。南極では観測調査で頻繁に遠征に出かけていたのだが、南極でも富士山でも、長い遠征を終えた後に入る風呂は格別である。

僕の研究テーマは「極地建築」といって、南極や山岳地帯、宇宙など、一般に極地とよばれる場所に生きる人々の、その生活と住まいを調べることである。極限の環境条件に加え、輸送や工期といった厳しい制限のなかから生まれた極地の住まいは、生き延びること以外の不必要な要素が極限まで削がれ、まるで剥き出しの要塞のようだ。しかしその冷ややかな外見とは裏腹に、そこでは住む人と建物とがお互いに助け合いながら共に生きていくという、温かな関係をそこに見ることができる。富士山測候所もまた、富士山という場所で何十年もの間育まれてきた、その温かな関係から生まれた建築だ。その関係をひも解くには、やっぱり自分で住んでみて確かめるのが一番。そういう訳で、南極に引き続き富士山に住むことになった。

富士山一年目の今年は、勝手が分からないなかでの試行錯誤の連続で、研究という面では満足といえる調査結果を残せなかったと思っている。一年目の経験を来年に生かして良い研究成果に結びつけたい。いつか僕の研究が、新しい測候所の暮らしに 役に立つようになれば嬉しい。

NPOのメンバーの皆さんには僕をとても温かく迎え入れて頂き、たくさんのアドバイスや手助けをして頂いた。山頂で一緒にご飯を食べながらの雑談は、何よりのご馳走だった。初めてNPOに参加させて頂いて強く感じたのは、研究者の皆さんが、自分の研究にだけでなく富士山測候所に対して、強い愛情と熱意を持っていること。予算や運営上の問題解決やNPOの将来に対して、皆さんが主体的に係わっていこうという思いがひしひしと伝わってきた。富士山測候所という場所で、この素晴らしい関係が今後何十年と育まれ、新しい富士山測候所のカタチが生まれることを願っている。研究者の皆さんとNPOの温かい関係を知るには、やっぱり自分もメンバーになってみることが一番。そういう訳で、微力ながら僕もNPOのお手伝いさせて頂こうと思う。  


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写真 富士山測候所での滞在最終日、浅間大社奥宮前にて 2010年8月27日撮影)
 



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